2025年シーズンを一言で表すと「2強」であろう。2024年シーズン最初のグランドスラムでシナーがジョコビッチをSFで破り優勝した。この優勝から2025年シーズンの終わりまでの2年間、男子テニス界は「2強時代の深化」が起きたと言って相違ない。2025年シーズンのグランドスラム決勝、全豪オープンこそ「一方」が不在だったものの、続く全仏、全英、全米はすべて「2強」の戦いとなった。ヤニック=シナーとカルロス=アルカラス。この二人がリード、いや「支配」する展開は2026シーズンも続くだろうか。ここではこの「2強時代の深化」を分析し、この2強に割り込む選手を展望したい。
シナーとアルカラスの強さ
改めて両者の強さを2024年シーズンから振り返ってみる。
●2024年、2025年シーズンの両者のスタッツ
~2024年シーズン~
・アルカラス 54勝13敗 勝率80.6% タイトル数4 最終ランキング3位
全仏、ウィンブルドンのタイトル獲得。ジャリーやバンデザンツフープ、アンベールといったTOP10以外の選手に負けることも多々あり。波があるシーズンではあったが、大きな大会で確実に成績を残し3位でシーズンを終えた。
・シナー 73勝6敗 勝率92.4% タイトル数8 最終ランキング1位
全豪、全米のタイトル獲得。6敗のうち3敗が対アルカラス。他はチチパス、メドべデフ、ルブレフというTop10もしくはTop10経験者に1回ずつ敗れているのみ。圧倒的な安定を持つ勝利マシンと化し、ツアーを支配。1位でシーズンを終えた。
~2025年シーズン~
・アルカラス 71勝9敗 勝率88.8% タイトル数8
全仏、全米のタイトル獲得。レへチカ、ドレイパー、ゴファン、ノリーらに敗れることもあったが、シーズンどの時期を切り取ってもタイトルを安定して獲得。年間を通してみると2024シーズンよりも安定感を増しツアーを回れるように成長したと言える。また各所から弱点とささやかれていたサービスにも改良を加え、よりプレー面での安定感も増したシーズンであるようにみえた。ランキング1位でフィニッシュ。
・シナー 58勝6敗 勝率90.6% タイトル数6
全豪、ウインブルドンのタイトル獲得。2月から4月末まで禁止薬物陽性反応によるツアー離脱があったが、5月のローママスターズで復帰。2024年シーズンと同様に6敗のうち3敗が対アルカラス。また残り3敗のうち、2敗は棄権、1敗は芝でブブリクに敗れたのみ。またシーズン後半で北京、ウィーン、パリ、ファイナルズと続けて4つのタイトルを獲得。ツアー離脱の影響を全く感じさせない安定感を維持し、2位でシーズンを終えた。
アルカラスは、要所での爆発力。グランドスラムやマスターズ等の大きな大会に照準を合わせ確実に勝っていく力。
シナーは一年を通しての安定感。ランキング下位、もっと言えばアルカラス以外にほぼ負けない状態。
特にアルカラスに関しては2024から2025に爆発力に加えてより安定感を増した感がある。
●2024年と2025年のグランドスラム優勝者
| 全豪オープン | 全仏オープン | ウィンブルドン | 全米オープン | |
| 2024年シーズン | シナー | アルカラス | アルカラス | シナー |
| 2025年シーズン | シナー | アルカラス | シナー | アルカラス |
直近二年間のグランドスラムタイトルを2強が総なめした。これは極めてまれな独占状態と言える。というのも、実はテニスのオープン化(現行のプロテニス制度導入)以降、二年間のグランドスラムを二人が独占したことはこれまでに一度もなかった。
Big3(フェデラー、ナダル、ジョコビッチ)もしくはBig4(Big3に加えマレー)という支配の時代が終わりを告げ、Big2の時代へ、さらにこの二年間で支配力を加速させ突入したと言える。
またこれまでの時代との比較という面で、全サーフェスで二人が強いということも特筆すべきだ。
現在のATPツアーの上位大会はハードコートで行われる大会が中心だ。2025年時点のサーフェス毎の大会数は次の通り。
| グランドスラム | マスターズ1000 | ATP500 | 合計大会数 | |
| ハードコート | 2大会 | 6大会 | 10大会 | 18大会 |
| クレーコート | 1大会 | 3大会 | 4大会 | 8大会 |
| グラスコート | 1大会 | 0大会 | 2大会 | 3大会 |
これまで多少の増減はあるにせよハードコート偏重の傾向は大きくは変わらない。しかし例えば、80年代のビヨン=ボルグ、ジョン=マッケンローが台頭していた時代に全仏を獲ったギレルモ=ビラス、ヤニック=ノア、90年代のアガシ、サンプラスの時代に割って入ったジム=クーリエやセルジ=ブルゲラ、また最近だとフェデラー、ナダル、ジョコビッチに挑み戴冠を掴んだワウリンカなど、どの時代にもある一定のサーフェスや条件で勝てる選手というのが現れてきた。この2強時代にそういった選手は現れるのだろうか。
2025年の全仏オープン決勝、シナーの3本のマッチポイントを凌ぎアルカラスがファイナルタイブレークで決着をつけた、決勝史上最長の5時間29分の死闘。史上最高レベルと評されるこの試合だが、果たしてこのレベルに誰が割って入っていけるだろうか。このハードコート主流の時代に、クレー、さらには芝でも対抗できる選手が今のところ出てきていないのは、どれだけこの二人がどのサーフェスでもアジャストし安定しているかを物語っている。
第三の男の行方
ここまで2強の強さを分析してきたが、この2強に割り込む選手は出てくるのだろうか。ここでは2強に対抗し割り込んでいける可能性のある選手を、「門をたたく者」「ブレイクスルー」に分けて挙げる。
●門をたたく者
・アレックス=デミノー
この二年間で2強に次ぐ安定感を誇るのがデミノーだろう。すべてのグランドスラムでベスト8以上を経験し2強に挑み続けている選手の一人だ。2025年シーズン終了時点で、シナーと13回、アルカラスと6回対戦しているが、驚くべきことにいまだにどちらに対しても勝ち星がない。ストロークの安定感とツアー屈指のフットワークで下位選手を寄せ付けない安定した強さに磨きをかけどこまで2強に食い込めるだろうか。
・アレクサンダー=ズべレフ
2024年シーズン、シナーとアルカラスに割って入ったズべレフ。これまでシナーと10回対戦しうち4回の勝利、アルカラスとは12回対戦しうち6回の勝利を挙げている。グランドスラムやマスターズ1000といった大きな大会での勝利もつかんでおり、2強に割って入る筆頭と言えるだろう。2026年に29歳を迎える無冠の大器がどこで覚醒するか。これからも目が離せない。
・アレクサンダー=ブブリク
もう一人、意外かもしれないが、ブブリクをあげたい。33位でスタートした2025年シーズン、全仏オープンでのベスト8や4つのツアータイトル獲得など、目覚ましい活躍を収め一気に11位までランキングをあげた。全仏オープン、全米オープンではシナーに挑み敗れ、上位進出を阻まれてきた。ただし前述の通り、2025年シーズンにシナーに黒星を付けたのは、棄権を除くとアルカラスとこのブブリクだけである。実はアルカラスとの対戦はまだなく未知数。大舞台で2強に勝てる素養があるか、期待したい。
●ブレイクスルー
・ジョアオ=フォンセカ
2024年のATP NextGenを優勝し、予選を勝ち上がった2025年の全豪オープン1回戦で当時9位のルブレフをストレートで下した超新星フォンセカ。弱冠19歳だが、すでに2つのタイトルを獲得、TOP30も経験している。持ち味であるフォアハンドの強打を軸にした爆発力のあるテニスを、2強に通用するテニスに昇華させることができるか。また1年を通し安定した成績を収めるテニスを展開できるか、見届けたい。
・ラーナー=ティエン
フォンセカとほぼ同年代で2025年シーズン存在感を発揮した若手がティエンだ。121位でスタートした2025年シーズン。初戦の全豪オープンで予選を勝ち上がり、二回戦でメドべデフを下しベスト16まで駒を進めた。121位の選手がいきなりグランドスラムでベスト16まで勝ち進むこと自体異例なのだが、2025年シーズンを通してパフォーマンスを維持し28位までランキングを上げたことも大いに評価されるべきポイントだろう。ATP500北京決勝でのシナーとの直接対決では完敗だったが、持ち帰った宿題をどのように自身のテニスに組み込んでいくか、2026年シーズンでの成長を期待したい。
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